永遠に語り継がれる車

HISTORY of ISUZU Bellett  STORY3 

第1章 いすゞ・ベレット 理想への飽くなき挑戦


GTという名を冠される車にいちばん大切なものは、豪快なドライブ、 フィーリングが味わえる卓越した性能とその 高速性能にみあう安全性、 そして長距離走行にも疲れない居住性。 わずかな改造を行えばレースにも参加できる性能を秘めているが、 それは決してスポーツカーではない。豪華な実用性を持った最高級のツーリングカーなのだ。 これを原点にいすゞ自動車は開発に取り組んできたわけなのである。

そして昭和43年、NEWベレット1600GTが誕生した。空気抵抗が少ない美しいボディスタイル。 高速安定性が良く急カーブを切っても車体が傾かない独得のサスペンション。 理想的な運転姿勢をつくり、長時間の高速走行を豪華で 機能的な室内。 その運転感覚は“ベレット・フィーリング”という言葉を生み、全ての《GT》の指標になろうとしている。 更にヘッドランプを4灯とし光力を50%強化。テールランプも2倍明るくなり、 夜間の高速ドライビングをいっそう安全なものにした。

同時に昭和43年より、高性能DOHCエンジン開発に着手、その完成を見た。 昭和44年には苛酷な耐久力を試される。 鈴鹿12時間レースにプロトタイプレーシングカー・ベレットGTXで参戦。
117クーペに搭載された120馬力のG161W型をベースにチューンされたエンジンは、 吸排気系のチューンとエンジン本体の細部のチューニングにより160馬力に近いレベルまで引き上げられ、 その比類なき高性能と耐久性を見事に実証。ポルシェカレラ6ほか名だたる2リットルマシンを撃破した。 このエンジンは後のベレット1600GTRに受け継がれ今もエンスージアストの心をとらえている。

いすゞ・ベレット 更なる飛躍!!

実際に生産が目指されたMX1600は、いすゞでのリデザインを経て、MX1600-Ⅱに発展する。 第2次プロトタイプの基本レイアウトは、変わらぬもののスタイリングをはじめ、各所に改良が加えられていた。

ボディはFRP製となり、ヘッドランプは4灯式で低い位置にぶら下げる。 エンジンも新たに117クーペEのG161WE型になっている。 この2次型はシャーシ単体も含め3台製作されたが、いろいろな事情が重なり、 ついに生産されずに終わってしまった。

4本スポークの奥には丸型7連メーターが。ふたつのシートは本革製のバケットタイプ。 200km/hの速度計などもあり迫力満点。 MX1600用に120馬力から140馬力に 高められたG161W型エンジンをミッドにマウント。

主要諸元
全長4100mm
全巾1650mm
全高1100mm
定員2名
ホイールベース2450mm
最小回転半径5.2m
エンジン型式G161W型
変速機ヒューランドFT200A5速
タイヤBR70-14
ブレーキ4輪ディスク

ベレットの歩みは日本のモータースポーツの歴史

昭和39年6月に登場したベレット1600GTはそのハイパワーと、 全輪独立懸架が生む抜群のコーナーリング性能で 日本のモータースポーツ界を席捲した。 弾丸のように疾走する英姿はあらゆるレースで熱い視線をあび、 チェッカーフラッグを掻い潜った。
マニアに「ベレG」と愛称され同クラスに無敵の強みを誇りレーシングマシンの指標となった。
昭和44年に高性能DOHCエンジンを開発しレースを技術革新の舞台とするいすゞ技術陣は、 さらにこの心臓を生かすベレット R6、R6スパイダーを開発し昭和45年秋、 ビックイベントであるオールスターカップに総合優勝したのである。

主要諸元
エンジン型式161W型DOHCエンジン
排気量1584cc
圧縮比12
最高時速280km/h以上
最高出力180ps/8200rpm
最大トルク16.5kgm/70000rpm
車輌重量550kg
変速比1速2750/2速2285
3速1666/4速1350
5速1136
最終減速比3.444

国内モータースポーツイベント(JAF公認)ベレットの主な戦績

年月場所レース名成績
昭和40年8月船橋サーキットNACコンチネンタルチャンピオンオブ・ロードレース JC優勝
9月東京→西宮第2回ツールドニッポンCBA優勝
9月船橋サーキット第1回ゴールデンピーチ・トロフィーレースGB総合優勝
10月船橋サーキット第3回クラブマンレース船橋大会T総合優勝
11月船橋サーキット第7回ナショナルストッカーレース総合優勝
昭和41年3月富士スピードウェイ第4回クラブマンレース富士大会S-1優勝
4月船橋サーキット第2回ゴールデンビーチ・トロフィーレース総合優勝
4月鈴鹿サーキット鈴鹿300kmレース
T-2優勝
5月富士スピードウェイ第3回日本グランプリ自動車レースTS-2優勝
6月鈴鹿サーキット鈴鹿1000kmレースT-2優勝
9月船橋サーキット第3回ゴールデンビーチ・トロフィーレースTS-2優勝
11月船橋サーキット第6回クラブマンレース船橋大会T総合優勝
11月鈴鹿サーキット全日本レーシングドライバー選手権T総合優勝
12月船橋サーキット'66SCCJ レースミーティングT総合優勝
昭和42年3月船橋サーキット第2回ダイヤモンドトロフィーレースBS-3総合優勝
3月船橋サーキット全日本レーシングドライバー選手権T総合優勝
3月鈴鹿サーキット鈴鹿500kmレースT-2優勝
4月船橋サーキット第7回クラブマンレース船橋大会C-B優勝
5月富士スピードウェイ第4回日本グランプリ自動車レースT-3優勝
6月東京→箱根第3回ツール・ド・ニッポンGT-B優勝
7月富士スピードウェイ全日本富士1000km耐久レースS-2優勝
7月鈴鹿サーキット鈴鹿12時間自動車レースT-2優勝
8月富士スピードウェイ第8回クラブマンレース船橋大会T総合優勝
8月東京→長野エリックカールソン杯BCAAナイトラリー総合優勝
9月東京→中部山岳第9回日本アンペンラリーC-2優勝
10月鈴鹿サーキット鈴鹿1000kmレースT-2優勝
昭和43年3月鈴鹿サーキット鈴鹿500kmレースT-2優勝
7月富士スピードウェイ全日本富士1000km耐久レースTS-2優勝
10月富士スピードウェイ富士12時間耐久レース総合優勝
昭和44年4月鈴鹿サーキット鈴鹿500kmレースT-2優勝
8月鈴鹿サーキット鈴鹿12時間自動車レース総合優勝
昭和45年10月富士スピードウェイ日本オールスターレースGSC総合優勝
10月富士スピードウェイ日本オールスターレースSSC優勝

第2章 いすゞ・ベレット GTの頂点1600GTR登場!!

ベレットシリーズ誕生から7年目、1969年(昭和44)ワイドバリエーションの最右翼に ベレットのスーパーモデル 「ベレット1600GTR」が発表された。美しい仕上がりと驚異的パワーを発生する 117クーペ用のDOHC1584cc、 120馬力エンジンをベレットGTの2プラス2ボディに積み込んで 最高速190km/hを可能にしたものだ。
このベレット1600GTRの登場により、ベレットシリーズとりわけベレットGTがその頂点を極め 人々の熱い眼差しを浴びたのであったが、 実はこの2ヶ月程前に、華々しい実質的なデビューを飾っていたのである。 1969年8月10日の鈴鹿サーキット・12時間耐久レースに エントリーした2台のベレットGTXは、 初戦にして美事にオーバー・オール・ウィンを果たす。 このベレットGTXこそベレット 1600GTRとして市販されるクルマのプロトタイプをも 兼ねたレーシング・バージョンであったのである。このデビューしたベレット 1600GTRの 外観上からこのハイパワーを象徴するものは、エンジン・フードに新設されたベンチレータぐらいなものだが、 内容は大きく変化している。走り出してすぐに気がつくことは、前後輪への荷重配分が平均して、 強化されたサスペンションと共に 高速安定性が性能と相対的に向上していることだ。
ベレットの走行安定性はすでに定評のあるもので、独得の”味”を提供するが、 GTRのサスペンション・ステアリングにもこの例に 洩れずバランスの良い走りっぷりを示してくれる。 とくに高速コーナーリングやタイトコーナーに挑んだ際にその”よさ”が分かる。 リミテッド・スリップが装備されたデフレンシャルが氷結した道路やぬかるみ以外でも 無駄無く駆動力をタイヤに伝え、 不必要なホイルスピンを起こすことがない。 市販車としては異例な高いポテンシャルの持ち主との評価を集めた。

時、60年代の終り-日産スカイラインGT-R・コロナ・マークⅡGSS・トヨタ2000GT・ フェアレディ-Z・ギャランGTO -MR・セリカGT・そしていすゞ117クーペ/ベレットGTRと DOHCエンジンはまさに百花繚乱、わが国のクルマの 歴史に於いても最も華やかな佳き時代の1ページを飾る。 その中にあってもいすゞ・ベレット1600GTRが独自のキャラクター を持って、 ひと際輝いていていたのは忘れ得ぬエポックであるといえよう・・・・。

DOHC・G161Wエンジンは予想に反してフレキシブルな使い易いトルクを発生し、 2000回転もしていれば充分な駆動力が得られる。むろんエンジンの立ち上がりは速やかで特別のテクニックを使わなくても、 静止から100km/hに車速を上げるのに11秒しか要さず各ギアのノビもGTの名にふさわしい。
エンジンが充分許容する回転6400まで各ギアで引っ張ってみると、 1速55km/h、2速98km/h、3速140km/h まで一気に息継ぎせずにノビる。 法定最高の100km/hでは3速で3500回転、4速だと2500回転しかしておらず、 アクセルを踏めばいずれも直ちに加速体勢に入る事ができる。

ベレット1600GTR 主要諸元表

寸法(mm)車両全長4005
車両全巾1495
車両全高1335
ホイールベース2350
トレッド(前)1260
トレッド(後)1240
最低地上高160
客室内側寸法(長さ)1480
客室内側寸法(巾)1240
客室内側寸法(高さ)1060
重量(kg)車両重量970
乗車定員4
車両総重量1190
性能最高速度(km/h)190
登坂能力(sinθ)0.55
最小回転半径(mm)5000
エンジン名称G161W
型式水冷4サイクル直列頭上弁式
シリンダー数ー内径x行程(mm)4-82x75
排気量(cc)1584
圧縮比10.3
最高出力(PS/rpm)120/6400
最大トルク(kgm/rpm)14.5/5000
気化器SU型(2個)
充電発電機(V-W)12-300(AC)
始動電動機(V-W)12-1
長x巾x高(mm)770x650x638
重量(kg)138
蓄電池蓄電池(V-AH)12-40(1個)
燃料タンク容量燃料タンク容量(リットル)46
冷却水容量冷却水容量(リットル)7.5
クラッチ乾燥単板ダイヤフラム
変速機変速機前進4段 オールシンクロ
第1速3.467
第2速1.989
第3速1.356
第4速1
後退3.692
減速装置減速装置ハイポイドギヤー
減速比3.727
後車軸ダブルウィッシュボーン
前車軸ダイヤゴナルリンク式スイングアクスル
タイヤ165HR13ラジアル
操行装置ラックピニオン式
ブレーキ装置フロントブレーキ装置 ディスクハイドロバング式
リヤブレーキ装置L-Tアルファンドラム
車名GTtypeR

第3章 いすゞ・ベレット GTにつづくもの・・・

旧き佳き60年代から70年代へと入って間もなく、クルマを取り巻く世の時勢は大きく流れを変える。 度重なる石油ショックと排出ガス規制の嵐は、ベレット1600GTRをはじめとする60年代後半から花開いた 高性能スポーツカー群 に容赦なく押し寄せた。
“スポーツ・カー”という言葉自体が社会悪と批判されるような異常な環境の中で、 ベレットも少しずつ形を変えていった。

1970年・3月でベレット1600・ファーストバックの生産を中止したのに代わり、 同年10月により余裕を持たせたベレット1800GT(上写真)が登場する。 G180型水冷直列4気筒SOHC1817cc エンジンを搭載した1800GTは、115PS/5800rpm、 15.5kgm/4200rpmのパワーを与えられ最高速度 180km/hとGTRに迫る高性能を得ていた。
翌71年・10月いすゞとしては異例ともいうべき“チェンジ”のための“チェンジ”が行われる。 すなわち各車ともフロント/リア のグリル意匠変更を主体としたマイナーチェンジが施され、現代的で派手な装いに改められた。 ベレットGTの小柄で引き締まった ボディには、いささかオーバーデコレーションに過ぎ、 善良なベレット・ファンには不評であった。

同時にベレット1600GTが中止されベレット1800GTNが戦列に加わった。 ベレットGTNはベレット1800GTをベースにした廉価版で、エンジンはベレット1800GT用のチェーンを 低くしたものである。 100PS/5400rpm、14.6kgm/3000rpmのパワーを持つ。

特徴的なのはカーブレーションでロチェスターが1基付く。しかしベレット1800GT/GTNも旧き佳き時代の面影を 大きく残した ベレットGTシリーズには効果的カンフル剤とはなり得ず、一方より現実に迫ってきた排出ガス規制等の 挟み打ちに遇ってしまった。 遂に1973年(昭和48年)3月を以ってその姿を消すことになった・・・・。

ベレットGTの歴史の幕はおろされた。ベレットを心から愛好し、またいすゞというメーカーに限りない愛着を覚えていた人々も 、] もう旧くなった“ベレG”を慈しみながら保つしかすべが無くなってしまったかに思われた・・・・・。
それから6年が経った1979年(昭和54)10月のことである。いすゞはGM社との提携のもと、 世界的なグローバル・カーを共同開発し、「いすゞ・ジェミニ」の名で世に送り出した。 かつての“ベレG”を彷彿させるジェミニZZ は、ボンネット・フードの中にブルーのカムカバーを潜ませた現代の スポーツセダンである。ベレットGTの歴史は終わった。 しかしこの時新しい歴史がまたひとつ始まったのである。

いすゞ・ベレット 後継車ベレット・ジェミニ登場

ジェミニの原型はデトロイトのGM技術センターで開発された。見せかけよりも内容のあるクルマ、 一部の人よりもみんなに愛されることをめざして開発されたモデルであった。いすゞはこの思想に共鳴。 ベレットの後継車として選び、GMと共に3年の歳月をかけて練磨完成した。 したがって皆さんにお届けするジェミニの1台、 1台にはいすゞの技術はいうまでもなく、 ヨーロッパではオペルの新しいモデルとして、南アメリカではその姉妹車として幅広く 愛され実証されている グローバルな実績がある。
わが国のモータリゼーションに不滅の足跡を残し、スポーティ指向を先取りしたベレット。 いすゞは乗用車を発表するたびにその都度、 新しい試み新しい技術に挑戦。 個性ゆたかなクルマづくりに励んできた。そしていすゞはGMとの共同開発車ベレット・ジェミニに これからのクルマのあるべき姿を追求してきたのである。タフであること、より安全であること、使いやすいこと、 きれいに走る ことなどテーマにさまざまな工夫をこらしてきた。

日本だけでなく世界の人から愛されることを目指して、知恵と技術を注ぎ込んだ車こそ、 このベレット・ジェミニなのである。

公害対策はもちろん、合理性、高性能、耐久性、静粛性をテーマに開発された。 高速走行での余裕はいうまでもなく、 中低速での市街地走行でもねばり強さを発揮する高出力の使いやすいエンジンである。 完全燃焼をうながす半球型燃焼室、 V型バルブ配置のクロスフロー方式。燃料室中のガスの流れがスムーズ。
インプットマニホールドを温室加熱式にして燃料の霧化を促進。かかりのよいオートチョーク。 点火性能を高めるレジスター付きコイル。苛酷な条件下でも性能を良好にたもつインタンク式電磁ポンプ。 フューエルパイプラインは余分な燃料タンクにもどすフューエルリターン方式。タイミングチェーンは合理的な ワンチェーン方式。 テンショナーを取り付け、オートアジャスターで安定した張力。のびも少なく静か。つねに適正な混合気を吸入。 完全燃焼を目指したエンジンである。







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