ベレットシリーズ誕生から7年目、1969年(昭和44)ワイドバリエーションの最右翼にベレットのスーパーモデル
「ベレット1600GTR」が発表された。美しい仕上がりと驚異的パワーを発生する117クーペ用のDOHC1584cc、
120馬力エンジンをベレットGTの2プラス2ボディに積み込んで最高速190km/hを可能にしたものだ。
このベレット1600GTRの登場により、ベレットシリーズとりわけベレットGTがその頂点を極め人々の熱い眼差しを浴びたのであったが、
実はこの2ヶ月程前に、華々しい実質的なデビューを飾っていたのである。1969年8月10日の鈴鹿サーキット・12時間耐久レースに
エントリーした2台のベレットGTXは、初戦にして美事にオーバー・オール・ウィンを果たす。このベレットGTXこそベレット
1600GTRとして市販されるクルマのプロトタイプをも兼ねたレーシング・バージョンであったのである。このデビューしたベレット
1600GTRの外観上からこのハイパワーを象徴するものは、エンジン・フードに新設されたベンチレータぐらいなものだが、
内容は大きく変化している。走り出してすぐに気がつくことは、前後輪への荷重配分が平均して、強化されたサスペンションと共に
高速安定性が性能と相対的に向上していることだ。
ベレットの走行安定性はすでに定評のあるもので、独得の”味”を提供するが、GTRのサスペンション・ステアリングにもこの例に
洩れずバランスの良い走りっぷりを示してくれる。とくに高速コーナーリングやタイトコーナーに挑んだ際にその”よさ”が分かる。
リミテッド・スリップが装備されたデフレンシャルが氷結した道路やぬかるみ以外でも無駄無く駆動力をタイヤに伝え、
不必要なホイルスピンを起こすことがない。市販車としては異例な高いポテンシャルの持ち主との評価を集めた。
時、60年代の終り−日産スカイラインGT−R・コロナ・マークUGSS・トヨタ2000GT・フェアレディ−Z・ギャランGTO
−MR・セリカGT・そしていすゞ117クーペ/ベレットGTRとDOHCエンジンはまさに百花繚乱、わが国のクルマの
歴史に於いても最も華やかな佳き時代の1ページを飾る。その中にあってもいすゞ・ベレット1600GTRが独自のキャラクター
を持って、ひと際輝いていていたのは忘れ得ぬエポックであるといえよう・・・・。
DOHC・G161Wエンジンは予想に反してフレキシブルな使い易いトルクを発生し、
2000回転もしていれば充分な駆動力が得られる。むろんエンジンの立ち上がりは速やかで特別のテクニックを使わなくても、
静止から100km/hに車速を上げるのに11秒しか要さず各ギアのノビもGTの名にふさわしい。
エンジンが充分許容する回転6400まで各ギアで引っ張ってみると、1速55km/h、2速98km/h、3速140km/h
まで一気に息継ぎせずにノビる。法定最高の100km/hでは3速で3500回転、4速だと2500回転しかしておらず、
アクセルを踏めばいずれも直ちに加速体勢に入る事ができる。