旧き佳き60年代から70年代へと入って間もなく、クルマを取り巻く世の時勢は大きく流れを変える。
度重なる石油ショックと排出ガス規制の嵐は、ベレット1600GTRをはじめとする60年代後半から花開いた高性能スポーツカー群
に容赦なく押し寄せた。
“スポーツ・カー”という言葉自体が社会悪と批判されるような異常な環境の中で、ベレットも少しずつ形を変えていった。
1970年・3月でベレット1600・ファーストバックの生産を中止したのに代わり、
同年10月により余裕を持たせたベレット1800GT(上写真)が登場する。G180型水冷直列4気筒SOHC1817cc
エンジンを搭載した1800GTは、115PS/5800rpm、15.5kgm/4200rpmのパワーを与えられ最高速度
180km/hとGTRに迫る高性能を得ていた。
翌71年・10月いすゞとしては異例ともいうべき“チェンジ”のための“チェンジ”が行われる。すなわち各車ともフロント/リア
のグリル意匠変更を主体としたマイナーチェンジが施され、現代的で派手な装いに改められた。ベレットGTの小柄で引き締まった
ボディには、いささかオーバーデコレーションに過ぎ、善良なベレット・ファンには不評であった。
同時にベレット1600GTが中止されベレット1800GTNが戦列に加わった。
ベレットGTNはベレット1800GTをベースにした廉価版で、エンジンはベレット1800GT用のチェーンを低くしたものである。
100PS/5400rpm、14.6kgm/3000rpmのパワーを持つ。
特徴的なのはカーブレーションでロチェスターが1基付く。しかしベレット1800GT/GTNも旧き佳き時代の面影を大きく残した
ベレットGTシリーズには効果的カンフル剤とはなり得ず、一方より現実に迫ってきた排出ガス規制等の挟み打ちに遇ってしまった。
遂に1973年(昭和48年)3月を以ってその姿を消すことになった・・・・。
ベレットGTの歴史の幕はおろされた。ベレットを心から愛好し、またいすゞというメーカーに限りない愛着を覚えていた人々も、]
もう旧くなった“ベレG”を慈しみながら保つしかすべが無くなってしまったかに思われた・・・・・。
それから6年が経った1979年(昭和54)10月のことである。いすゞはGM社との提携のもと、
世界的なグローバル・カーを共同開発し、「いすゞ・ジェミニ」の名で世に送り出した。かつての“ベレG”を彷彿させるジェミニZZ
は、ボンネット・フードの中にブルーのカムカバーを潜ませた現代のスポーツセダンである。ベレットGTの歴史は終わった。
しかしこの時新しい歴史がまたひとつ始まったのである。
ジェミニの原型はデトロイトのGM技術センターで開発された。見せかけよりも内容のあるクルマ、
一部の人よりもみんなに愛されることをめざして開発されたモデルであった。いすゞはこの思想に共鳴。
ベレットの後継車として選び、GMと共に3年の歳月をかけて練磨完成した。したがって皆さんにお届けするジェミニの1台、
1台にはいすゞの技術はいうまでもなく、ヨーロッパではオペルの新しいモデルとして、南アメリカではその姉妹車として幅広く
愛され実証されているグローバルな実績がある。
わが国のモータリゼーションに不滅の足跡を残し、スポーティ指向を先取りしたベレット。いすゞは乗用車を発表するたびにその都度、
新しい試み新しい技術に挑戦。個性ゆたかなクルマづくりに励んできた。そしていすゞはGMとの共同開発車ベレット・ジェミニに
これからのクルマのあるべき姿を追求してきたのである。タフであること、より安全であること、使いやすいこと、きれいに走る
ことなどテーマにさまざまな工夫をこらしてきた。
日本だけでなく世界の人から愛されることを目指して、知恵と技術を注ぎ込んだ車こそ、このベレット・ジェミニなのである。
公害対策はもちろん、合理性、高性能、耐久性、静粛性をテーマに開発された。高速走行での余裕はいうまでもなく、
中低速での市街地走行でもねばり強さを発揮する高出力の使いやすいエンジンである。完全燃焼をうながす半球型燃焼室、
V型バルブ配置のクロスフロー方式。燃料室中のガスの流れがスムーズ。
インプットマニホールドを温室加熱式にして燃料の霧化を促進。かかりのよいオートチョーク。
点火性能を高めるレジスター付きコイル。苛酷な条件下でも性能を良好にたもつインタンク式電磁ポンプ。
フューエルパイプラインは余分な燃料タンクにもどすフューエルリターン方式。タイミングチェーンは合理的なワンチェーン方式。
テンショナーを取り付け、オートアジャスターで安定した張力。のびも少なく静か。つねに適正な混合気を吸入。
完全燃焼を目指したエンジンである。